原発反対派が大規模デモ 原発建設を巡って揺れる台湾

0

東日本大震災によって発生した津波による被害と、福島第一原子力発電所事故から二年。3月11日直前の3月9日と10日にかけて、台北では原発反対派による大規模デモが行なわれた。震災当時、どの国よりも早く、暖かい支援の手を差し伸べてくれた台湾。その台湾が今、原発廃止、建設中止を巡って大きく揺れている。

 

現在台湾には原発三ヶ所、原子炉六基があり、3月9日現在、定期点検中の第二原発二号炉以外全てが稼動中である。また現在、新北市貢寮区では龍門原発と呼ばれる第四原発の建設工事が行なわれている。しかし、台湾は日本と同様地震大国であり、第一原発と第二原発の中間地点である新北市金山には、陽明山から北東に伸びる活断層が存在している事から、福島第一原発事故以降、その安全性に疑問の声が上がっている。

 

また、屏東県墾丁にある第三原発以外の原発は全て新北市の太平洋側に位置しているばかりか、第二原発に至っては、原発から半径30km以内の地域に台北市の全域が含まれている。万が一大規模な事故が発生した場合、台湾最大の人口密集地である台北市、新北市、基隆市などの台北大都市圏、そして台湾全体の政治、経済、産業、生活に甚大な影響を及ぼす可能性がある。

 

また、一部メディアによって、台東沖の蘭嶼島にある放射性廃棄物保存場で廃棄物のずさん管理と、それに伴う放射能漏れの可能性が指摘された。台湾電力(台電)側は環境への影響はないとしているが、真実を隠蔽しているのではないかと言う疑問の声はぬぐい切れていない。また、そもそも台湾の電力供給は既に安定しており、新しい原発を建設する必要もないと言うデータも存在している。

 

高まる反原発の声を受け、2月25日、江宜樺行政院長は第四原発建設続行の是非を問う国民投票を早ければ7月にも行なうことを決定。また、大規模デモの実施に先駆けて、女優のリン・チーリン(林志玲)やグイ・ルンメイ(桂綸鎂)、アイドルグループS.H.EのEllaなどが支持を表明したほか、かねてより原発反対を訴えていた台湾の最大野党民進党もデモへの支持と参加を表明した。原発問題に政治思想も入り混じり、様相は複雑化している。

 

9日には台北のほか、台中、高雄、台東でもデモが行なわれた。最大規模のデモが行なわれた台北では、支持や協力を表明した団体は環境保護団体や婦人会、学生団体、企業団体など、正式申請をしているだけでも100団体を超えた。集合場所となった総督府前のケタガラン通り(凱道)には、午後3時の行進開始前には多くの参加者がつめかけた。支持団体や学生団体のグループのほか、家族連れやカップル、お年寄りなども見受けられ、原発問題への関心の高さを伺わせた。

 

一家四人で参加した家族は「原発は要らない」と訴える
一家四人で参加した家族は「原発は要らない」と訴える
「ノーモア福島」の旗を掲げる政治大学の学生グループ
「ノーモア福島」の旗を掲げる政治大学の学生グループ
祖父母と一緒にデモに参加した男の子
祖父母と一緒にデモに参加した男の子

実家が第一原発と第二原発に近い新北市金山だと言う男子大学生は「小さい頃は原子力がどんなものか知らなかったけど、物心ついてからは、いつも安全に対する不安があった。原発は要らない」と話し、国民投票については「選挙権が有るから絶対に投票する。自分の意見を言う大事な機会だ」と語った。また、小学生の子供2人と一緒にデモに参加した30代の夫婦は、「第四原発建設の費用がかかり過ぎている」と第四原発建設中止を訴えた上で、それに伴って電気代が値上げされる可能性が有る事については「それは仕方がない。全ては子供たちの未来のため」と話した。

 

景福門を進むデモ隊
景福門を進むデモ隊
防護服に身を包んだ参加者
防護服に身を包んだ参加者
デモ隊は多くの観光客が集まる中正記念堂も通過した
デモ隊は多くの観光客が集まる中正記念堂も通過した

 

赤ちゃんを抱きながらデモ行進に参加した30代の男性は「東日本大震災は、原発問題を考えるきっかけになった」と話し、福島第一原発事故の発生が、原発の危険性を改めて認識させた事を語った。髪の毛を反核マークの形に刈り取った20代女性は「デモに参加するのは当然。行動して、声をあげる事が重要。パソコンの前で座っているだけじゃいけないと思う」と話し、「原発は事故が一度起きてしまうと、その影響範囲は広く、(汚染は)なくならない」と原発廃絶を訴えた。職業軍人の20代女性は「原発はない方がいい。でも、資源がない台湾で、どうしていくのかは難しい問題」と語り、原発廃絶の難しさを語った。

 

沿道のファーストフード店からも声援が送られた
沿道のファーストフード店からも声援が送られた
海南路を進むデモ隊。主催者側の発表では10万人が参加した
海南路を進むデモ隊。主催者側の発表によると10万人が参加した
核マークの髪型で注目を集めた女性。昨日の夜に切ったと言う
核マークの髪型で注目を集めた女性。昨日の夜に切ったと言う

 

デモ行進には、原発推進派の立法議員のリストがを掲げ、罷免しようと訴えるグループもいたほか、防護服に身を包んだ参加者もいた。主催者側の発表によると、台北では10万人、高雄7万人、台中3万人、台東2000人の参加者がいたという。台北ではこの後9日夜から10日早朝にかけて、凱道で座り込み抗議を行なう。

 

原発に対して、国民がどの様な決断を下すのか、今後も動向を注意深く見守る必要がありそうだ。